韓流エンタメでカンパ〜イ 韓ドラ『イカゲーム』

「イカゲーム」
-誰に殺されるのか、なぜ殺されるのか-

 韓国エンタメのレベルが高いのは、多くの困難がこの小さな国に集中したことで、多様
なエピソードに事欠かないからだ。
 日本による植民地支配からの解放後も、朝鮮戦争と国家の分断、国策移民、軍事独裁政
権による圧政と民主化、通貨危機とIMFによる経済破壊、急激な新自由主義、さらにはSA
RS、MARS、コロナといった感染症までが、わずか70年ほどの間にこの国を襲った。
 こうした困難が生み出す多彩なエピソードが詰まったコンテンツが世界規模の配信サー
ビスに乗れば、おのずと世界の人々の心をとらえることになる。
 映画『パラサイト』は、絶望的なほど越えがたい社会階層の壁を見せつけた。そして
『イカゲーム』は、新自由主義とはいったい何か、いまの私たちの苦しさはどこから来る
のかを、言葉を超えて見事に描き切っている。
 物語では、借金を背負った人たちが、賞金に誘われて闇ゲームの会場にやってくる。し
かし、そこで行われているのは、敗者がその場で射殺される命がけのゲームだった。
 軽い気持ちで参加した者たちはパニックに陥るが、既に「だるまさんがころんだ」のゲ
ームが始まっており、少しでも動いた者は次々に射殺されていく。
 最後までゲームに勝って生き残れば、参加者数×1億ウォン(約1千万円)が勝者の手
に渡される。その額は456億ウォン。
 ゲームは至って簡単で、「だるまさんがころんだ」「型抜き」「綱引き」「ビー玉」
「飛び石」といった、世界中の誰もが子どもの時に遊んだことがあるものばかり。最後だ
けが、韓国の子どもの遊び「イカゲーム」だ。
 こんなことで殺されるのか、いったい誰が自分たちを殺すのか、まったく見えないまま
ゲームは進む。そしてこのゲームにはもう一つのルールがあり、参加者の過半数がゲーム
を止めようと言えば生き残りは全員帰される。
 彼らは恐怖から一度ゲームを中止し、それぞれの日常に戻るのだが、戻ってみればその
日常こそが「地獄」そのもので、そこから抜け出すために、結局また自ら望んで「賞金
ゲーム」に参加してしまう。
 実はこのゲームは金持ちの娯楽として仕掛けられていて、富裕層は参加者には見えない
ところから殺し合いを見て楽しんでいた。
 しかし、闘っている者はその構造を知らない。ただ借金から逃れるために、命を懸けて
他者を追い落としていく。すさまじい殺戮の連鎖に、直視できないという人も少なくない。
だが、リアルな社会には、まさに、直視できないほど過酷な死があふれている。
 かつて、「働けば自由になる」と標語が掲げられたアウシュヴィッツに送られたユダヤ
人たちは、誰に殺されるのか、なぜ殺されるのかも知ることなく事切れていった。温暖化
で家も故郷も沈んでいく島国の人々も、米国が武器の在庫処分のために始めた戦争で殺さ
れた人々も、渋谷区幡ヶ谷のバス停で朝を待って野宿していた女性も、殺される側は、い
つも、何もわからないままなのだ。
 たとえ民主主義のルールである「投票」があっても、人々は、目の前の辛さのために、
「生き残りゲーム」にその身を投じる。
 地獄とは、まさに、私たちの社会そのものなのだ。そしてそれは、まごうことなき新自
由主義の姿だ。
 「イカゲーム」は、自らの手で民主化を勝ちとった韓国社会だからこそ生み出せた、抵
抗と告発のエンタメだと思う。■

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『イカゲーム』予告編
https://www.youtube.com/watch?v=gSR7gMOGw6I

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