華流ドラマ『花と将軍』(2017年)
日本人がアメ車に憧れを抱いていた時代、エンタメといえばハリウッドだった。ジャパ
ン・アズ・ナンバーワンといわれた時代には『おしん』が世界中で人気を集めた。
そして今、一歩海外に出ればどこでもファーウェイとサムスンに囲まれる。そこに華
流・韓流エンタメが流れ込んだ。
中でも、悲喜劇が集約された歴史を持つ韓国は、世界に通じる「あるある」を提供しや
すい。なにしろ、植民地支配、内戦、民族分断、冷戦、兵役、難民、IMF(国家経済の破
綻)といった世界共通の課題に、儒教をベ―スにした女の悲劇が加わるのだ。
以前、トルコの友人宅で家族みんなが韓ドラで盛り上がる姿を見たときは「え、ここで
も?」と心底驚いた。女性を取り巻く不平等な環境は、日本も他の国も、例えばタリバン
のアフガニスタンでも変わらないからだ。
そんな韓流に比べて華流(中国語文化圏の作品)は少し遅れをとっているように錯覚す
る人もいるが、華流エンタメの経済圏は中国本土、香港、台湾、シンガポールと大きい。
それだけで十分採算が合うのだ。 その上、中国経済をバックに資本力で世界的に有能な人材を集めて作品作りをしているのだから、どんどん面白くなるのは当たり前。
その一例が『花と将軍』(2017年)だ。
放送直後から人気が急上昇し、動画配信サイト「Youku」だけの独占配信で、あっとい
う間に総視聴回数60億回を超えた。日本でもすでにいくつかの局で放送されている。
内容はあの漫画『ベルサイユのばら』の中国歴史版とでも言おうか。物語は強い女性将
軍と軟弱で遊び人の皇族との政略結婚からスタートするが、二人は徐々にお互いを理解し、
手を取り合って難題を解決していく。利発な妻が夫の良い部分を見抜いて活用するという、
夫育成痛快活劇でもある。
で、映像美が素晴らしいのだが、なんと衣装はワダ・エミで、美術が小澤秀高、音楽が
岩代太郎と、日本の世界的職人が参画しているのだ。画面に映る衣装の美しさは、ほれぼ
れするほどだった。
華流ドラマの難点は1作品が長いこと。50話以上あるのはざらで、中には200話とか300
話のものさえある。で、選ぶのに困ったらまずは「宮廷もの」。これは失敗が少ない。
華流エンタメに慣れない人は、同じ原作から複数の国で制作されているものが見やすい
かもしれない。
例えば『麗〈レイ〉~花萌ゆる8人の皇子たち~』(韓国2016年)/『宮廷女官 若
曦』(中国2011年)、『彼女はキレイだった』(韓国2015年)(中国2017年)(日本20
21年)などだ。
『彼女はキレイだった』は、ある男性が、子どものころ綺麗であこがれていた同級生を
探して会いに行くが、変わり果てた彼女に気づかず、他の女性を彼女と思い込んだところ
からスタートする。しかし、その後その同級生と同じ職場になり、気が付けばその人に再
び恋をしていたというラブコメ。
要は、外見ではなく、その人柄・内面が好きだったということ。
『花と将軍』は、男は年を重ねるごとに渋く、女はいつまでも若々しくという不愉快な
メッセージに抗うかのような「カッコイイ女」が主役だ。その爽快さは、内面の美しさ
に「女らしさ」「男らしさ」などないと言っているかのようだ。■